地球に無事帰還し、往復80年をかけた旅をようやく終えた時、既に私の年齢は90歳を越えていた。80年前とは町の景色も様変わりしており、当時の面影はひとつも無くなっていた。

 道端に落ちている新聞の記事が目に留まった。「人工ダイヤモンド製造技術完成。安価で大量生産が可能に」という記事だ。いやな予感がした。80年も経てば、ダイヤモンドも簡単に作れる技術が完成していてもおかしくない。ダイヤモンドの相場価格はどうなっているのだろうか。

 取ってきたダイヤモンドのひとかけらを、試しに宝石店に持ち込み、鑑定してもらうことにした。安価な人工ダイヤモンドが出回り、値崩れが起きる前に売りさばかなければと思った。

 鑑定士はダイヤモンドをルーペ越しに眺め、「おおっ」と声を上げた。「こんなに純度の高いダイヤは初めて見た。まだお持ちであれば、ぜひうちで全量買い取らせていただきたい。最高クラスである極上品と同価格で買い取りたい。」と言って来た。これは予想以上の値がつくと思い、「すぐに全量持ってきます。」と返事をし、早速運送業者の手配をした。

 ダイヤモンドというのが知れると強盗に襲われるおそれがあるため、宅配便の伝票の「品名」の欄には「石」と記入し、5000トン分の運送を依頼した。宅配便で扱っている最も大きい荷物サイズ50kg以下を利用すると、5000トン分で10万箱となり、料金は1箱5840円※佐川急便、都内→都内、通常輸送 なので、10万箱で5億8400万円がかかってしまう。借金がどんどん増えていくが、全数売れれば全ての借金は無くなり、利益分でこの先ずっと豪遊が出来る(当人はすでに90歳を過ぎており、老い先は短いが・・・)。

 40トン積載の大型トレーラー125台が宝石店にやってきた。宝石店の鑑定士は、「これ全部ダイヤモンドなのか!こんな大量の買取はできない。全国の宝石店を紹介するから、各店舗で買い取ってもらってくれ。」とのことで、各店舗へ送付することにした。10万箱の配送伝票をさらに記入し、遠隔地にも送付することとなるため、配送料金はさらに7億円程がかかり借金はどんどん増えるばかりである。

ダイヤモンドの品質の評価には、4Cと呼ばれる国際基準を用いる。 


色(カラー color)、透明度(クラリティ clarity)、重さ(カラット carat)、研磨(カット cut)の4点から評価し、それぞれの頭文字から4Cと略す。特に、透明度はダイヤモンドに含まれる不純物に左右され、不純物が少ないほど無色透明となる。

>>つづく