地球と同じ環境の惑星があれば、生命が宿っているかもしれない。人間と同じような知的生命がいるかもしれない。そうは言っても、この暗く広大な宇宙の中から惑星を見つけ出すのは容易な事ではない。
空気の澄んだ夜空を見上げると、無数の星が光り輝いているのが見える。これらの星は、太陽と同じく自ら光を放っている恒星なのである。地球のように光を発していない惑星は、太陽系の外となると直接見ることは不可能である。
しかし、現代科学の計測技術を利用すれば、直接その惑星を見ることは出来なくても、そこに惑星があるという事を確証することは出来る。各種測定結果から、その惑星の公転周期(一年の長さ)や重量、組成(その惑星が何で出来ているか)や平均気温まで判ってしまうのである。
今まで、惑星の発見は多数あったが、恒星からの距離が近すぎるために灼熱の環境か、距離が遠すぎるために極寒の環境かの、何れかしか発見されていなかった。しかし、今回は水が液体として存在出来る位置にある惑星が発見された。
スイス、フランス、ポルトガルの天文学者からなる研究チームの発表によると、てんびん座の方向20.5光年の距離にある恒星Gliese 581には、地球の約5倍の質量と1.5倍の半径を持ち、13日でGliese 581の周りを1周する惑星「Gliese 581c」が存在する。なお、恒星Gliese 581にはさらに2つの惑星が見つかっている。
Gliese 581cは、一年が約13日と、地球よりもかなり早い公転周期である。これは地球と比べて恒星までの距離がかなり近いためであるが、Gliese 581は太陽のわずか3分の1で、はるかに暗い。そのため、恒星に非常に近くても惑星Gliese 581cの平均気温は0〜40℃程度と考えられている。もし、実際に表面の温度がこの範囲内であれば、水は液体として存在し、さらに、生命が存在する可能性があるのだ。


Gliese581と3つの惑星の位置関係
惑星Gliese581cは、地球と近い環境であり、生命が存在する可能性があると考えられている。3つの惑星の公転周期(1年の長さ)は、Gliese581bが5.3日、同cが12.9日、同dが83.4日である。地球と比べてかなり短い一年である。

 

Gliese 581cは、地球から20.5光年の距離にある。光のスピードで向かったとしても20.5年の歳月を要する距離である。そう言われても良く分からない。もっともである。では、親しまれている距離の単位キロメートルで表すとどうだろう。「光年」を「キロメートル」に変換してみよう!
光速度は、真空中では299792.458km/秒である。地球の一回りが40000kmなので、光は1秒間に地球を7周半も回れる速さなのである。とてつもない早さである。では、20.5光年をkmで表すと、

となる。193兆8122億2658万7504kmである。
うーん・・・慣れ親しんでいるkmという単位で表しても、数値が大きすぎてピンと来ない・・・。
では、早い乗り物で行くとすれば、どれくらいで到着できるのだろうかを見てみよう。
 

日本で最も速い新幹線500系のぞみ号(時速300km)で、Gliese581cまで行くとすると、

ということで、日本最速新幹線で行くとすると、7374万8944年9ヶ月2日で行けるのである。はるか恐竜時代に出発しておけば、ちょうど今頃到着していることになる。
「本日は新幹線をご利用いただきまして、ありがとうございます。この電車は、のぞみ581号、Gliese581c行きです。途中の停車駅は、月、火星、木星、土星です。各駅の到着時刻をご案内いたします。月には53日後、火星21年後、木星224年後、土星456年後、終点Gliese581cには、7374万8944年後に到着予定です。車掌は小野寺、終点Gliese581cまでご案内いたします。・・・と言いたい所ですが、私がいくら長生きしたところで、木星の手前で寿命が尽きてしまいます。」というような案内になることでしょう。


日本最速の新幹線
500系新幹線。最高速度は時速300kmを誇る。奇抜な流線型デザインを採用し、新幹線の中でも一番人気のある車両。

うーん、新幹線では遅すぎる。ようし、私たちが乗ることの出来る世界最速の乗り物、超音速旅客機コンコルド(マッハ2、時速2156km)で行ってみよう!音速を超えるスピードなら、もっと速く着けるだろう!

ということで、超音速旅客機で行くとすると、1026万1912年7ヶ月9日で行けるのである。
新幹線よりは短縮されてはいるが、まだまだ程遠い時間がかかる。
「本日は超音速旅客機コンコルドをご利用いただきまして、ありがとうございます。当機はGliese581c行きです。途中、月、火星、木星、土星を経由してまいります。途中経由地への到着時刻をご案内いたします。月は7日後、火星3年後、木星31年後、土星63年後、終着Gliese581cには1026万1912年後に到着を予定しております。本日Gliese581cの天候は晴れ、気温23度、湿度68%との情報を確認しています。なお、当機が到着する1026万1912年後の天候、気温は大幅に変わっている可能性があります。っていうか、こんなに年月が経った後だと、その惑星自体があるのかどうかも分かりません。その点ご了承ください。」という案内になるでしょう。


世界最速の旅客機
一般人が乗ることの出来る最も速い乗り物が、この超音速旅客機コンコルド。しかし、老朽化のため墜落事故が多発したり、燃費が悪く環境に良くないことなどから、現在は運行していない。

じゃ、今度は人間が乗れる最も速い乗り物を探してみた。ありました!スペースシャトル!!速度は、なんとコンコルドの10倍以上の時速27875 km。これなら、早く着くはずだ!

ということで、スペースシャトルで行っても79万3710年8ヶ月15日もかかってしまうのである。結局、人類の科学技術では、生きているうちにたどり着くことは不可能なのである。
ちなみに、スペースシャトルだと、月まで13時間50分、火星まで83日、木星まで2年5ヶ月、土星までは4年11ヶ月でたどり着ける。

では、もし行くとすると、燃料代は幾らくらいかかるのだろうか。


スペースシャトル
人が乗ることの出来る(一般人は乗ることが出来ない)最も速い乗り物が、このスペースシャトル。宇宙へ行けるだけあって、速度は超音速旅客機をもはるかに凌ぐ。

 

近年の自動車は、環境問題を受けて、燃費が向上している。その中でも特に環境にいいと言われているハイブリッドカーで行くとすると、燃料代はどのくらいかかるか計算してみた。
ハイブリッドカーとして、世界で最も評価の高いトヨタプリウスを起用。プリウスの燃費は、1リットルのガソリンで35.5km走行できる(10・15モード走行)。ガソリン価格は2007年6月現在で最安値である1リットルあたり124円(レギュラーガソリン)で給油したとする。

となり、ガソリンは5兆4594億9934万493リットル必要である。
これだけの量のガソリン代は、

となり、676兆9779億1822万1141円がかかる。
ピンとこない数値であるが、全世界の一日の石油使用量である8500万バレル(1350万キロリットル※2005年値)と比較してみると、なんとプリウスでGliese581cまでの片道に、全世界の石油使用量の約1年1ヶ月分が必要なのである。
もちろんであるが、プリウスで実際には宇宙には行けないので、スペースシャトルで行くとしても、地球の全石油埋蔵量をはるかに超えてしまう量が必要であり、また途中に給油スタンドもあるはずが無く、結論としては、時間的にも燃料的にもとても行ける距離ではないのである。


ハイブリッドカー トヨタプリウス
エンジンと電気モーターの2系統で走行する。エンジンでは燃費が悪くなる低速域を電気モーターで走行することで、2000cc並みの動力性能を持ちながら、軽自動車並みの燃費を実現。トヨタプリウスは世界に先駆けてハイブリッドカーを1997年に発売を開始した。

では、Gliese581cには行けないことが確定したので、電話でのお話であれば出来るだろうか。電話で使用する電波は、光と同じ速度なので、Gliese581cまでは20.5年で到達できる。何とか生きているうちにお話は出来そうである。では実際に電話してみよう!

こちらが発信してから、20.5年かけて相手先に電波が届く。その返答に、さらに20.5年の歳月を要す。つまり、「もしもし」と言ってから返事を聞くまでに、41年がかかる。挨拶だけは話せるが、本題に入る前に電話した本人の寿命が尽きてしまい、用件を伝えられずに終わってしまうのである。

今から50年ほど前の1960年、フランク・ドレーク博士が地球から10光年先に位置するエリダヌス座のイプシロン星とくじら座のタウ星を標的として行ったオズマ計画というものがある。これは、宇宙からの電波を受信し、もし高度な文明を持った異星人がいれば、宇宙に向けて電波を発信している可能性があるため、その電波信号を受信しようとするプロジェクトである。ちなみに、地球からも宇宙には電波を発信しているのである。1974年、アメリカのカール・セーガン博士(1934-1996)らにより、30万個の星が集まった球状星団"M13"に向けて、プエルトリコのアレシボ電波望遠鏡から1679個のパルス信号で、宇宙人あてのメッセージを送っている。この電波を受信し、横23、縦73のます目に並べると、人間や太陽系の形、数字や化学式が表示されるように工夫されている。この電波が"M13"に届くのに2万3500年かかるため、もし返事が来たとしても4万7000年後となる。こんな先だと、電波を発信したことなど、きれいさっぱり忘れ去られているかも知れません。
近年の技術進歩により、地球と同じような環境の惑星が多数発見されるようになり、その惑星に焦点を向けて電波の受信を行っている。Gliese581cについても受信を試みているが、今のところ決定的な確証は発見出来ていない。地球外の知的生命からのシグナルと信号判定する基準は、同じ電波信号が複数回観測されることが絶対必要条件であると定められている。電波信号は多数受信されているものの、同じ電波信号を複数回受信するまでには至っていない。
今後、電波受信を根気よく続けていれば、いつかきっと遠い惑星から文明を持った異星人からのメッセージを受け取る日が来るだろうと信じたい。


Gliese581cの想像図
右側の赤い星が、恒星Gliese581、手前の惑星がGliese581cである。太陽系で言うなら、太陽と地球の関係である。恒星Gliese581は表面温度が太陽よりも低く、赤っぽい色をしている。

宇宙の星までの距離の話が出たついでに、ちょっと宇宙の距離感について考えてみた。
今まで誰も見たことの無い、宇宙の果て。地球からはるか140億光年先にあると言われている。どれくらいの距離なのか。あまりにも広大すぎるので、縮尺を換えて見てみよう!
1光年の距離を、1cmとして考えてみた。つまり、1秒間に地球を7周半も回るスピードの光が、1年間もかけて進める距離を、わずか1cmとするのだ。とてつもなく想像がつかないくらいの縮尺率である(縮尺率:94京5425兆4955億4880万分の1)。
縮尺率で、既に「兆」の位を超えて、「京」の桁になっている。これほどまでに縮尺すれば、宇宙の果てまでの距離はどの程度になるのだろうか。
上記話題の、Gliese581までの距離は、この縮尺率だと20.5cmとなる。どんなに頑張っても行くことの出来ない距離にあるGliese581までの距離を20.5cmとするのである。
さて、140億光年を、上の縮尺に置き換えると・・・
140億cm=14万km
となり、地球1周が4万kmなので、地球3周半強の距離である。
スペースシャトルの性能でも80万年程度かかる距離を、わずかA4用紙の横の寸法にまで縮めても、宇宙の果てまでの距離は地球3周半になってしまう。宇宙のスケールは、想像をはるかに超える果てしない大きさであることが分かって頂けるでしょうか。

 

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